呉越国は907-978年に、現在の中国浙江省杭州市を中心とした領土を納めた国です。呉越国が位置した江南は資源に恵まれた豊かな土地で、新石器時代には玉文化を誇る良渚文化、漢時代以降は青磁の焼造で名高い越州窯があるなど、古来、高い文化と工芸技術が育まれてきました。唐時代になると、明州(現・寧波市)は日本を含めて海外からの船が往来する海港都市となり、海上交通の要衝となります。また、鄮県阿育王寺(現・寧波市鄞州区)は江南における釈迦・舎利信仰の中心地であり、唐の天宝三年(744)に鑑真が日本への渡航中に立ち寄り、地中から感得されたという阿育王塔を目にしています。さらに、天台仏教の聖地である天台山があり、江南は仏教の盛んな地域でした。呉越国を治めた銭氏一族はこのような特色を受け継いでいます。また同時に、海外である日本や朝鮮半島の高麗、中国北方の遼などと仏教を介した交流を行い、東アジアにおける文化交流に大きな役割を果たしました。
本展では、中国浙江省博物館及び臨安市文物館から美術的・学術的に高い価値を持つ仏塔と王族墓からの出土品を中心とした多くの作品を拝借し、日本に伝わる呉越国関連作品とともに展示します。日本で呉越国に焦点をあてる初めての展覧会であり、その文化・芸術の東アジアにおける位置付けを試みます。