さて、母系社会の大きな特徴をまとめると、部族の長は女性であり、その女性が部族内をすべて取り仕切り部族全体に大きな影響力を持っています。しかしその内部は非常に民主的に運営されており、決して封建的ではなく、すべての者に寛容な社会を築いています。
中国雲南省の奥地に存在する「モソ」という民族は典型的な母系社会を継承していますが、その特徴を見るのが分かりやすいと思います。まず、結婚という制度がないため夫婦という関係性もなく、その概念すら存在しません。ではどうなっているかというと、「走婚」つまり「通い婚」になっているのです。男性は好きな女性の家に通いながら、というより女性が好きな男性を呼び、関係性をつくります。最低限のルールがあるにせよ、一緒に住むのも自由だし、その関係を終わらせるのも自由なのです。もし子供が出来た時は女性の家族が皆で育てることになり、男性には一切の養育の義務はありません。父親が誰であるかは重要ではなく、誰が産んだのかが大切にされます。
このような習慣を現代の常識的な目線で見てしまうと「これで社会が成り立つのか?」という疑問が浮かぶと思います。民族の構成はシンプルで農耕を中心とした社会なので、必要以上に現金収入を必要としていないから成立していたという背景もあります。また男性の存在感がないわけではなく、地域社会の中でしっかり役割があり責任ある仕事が任されています。ただ、至って自由であるということ。前述のように男女関係だけではなく、すべての人間関係が、とてもおおらかで寛容な社会を築いていたということです。この傾向はモソだけではなく、多少の違いはあれ母系社会を築いている民族ですべてに見られる傾向です。
かつての日本も平安時代までは明らかに母系社会を築いていたといえます。おそらく当時は一部の貴族や武士階級を除き、明確な結婚の制度もなく女性が家系を継いでいました。源氏物語をご存じの方ならその時代背景が何となく分かると思いますが、あまりに自由奔放な暮らし方に理解に苦しむ部分があるのではないでしょうか。もちろん物語として脚色されている部分もあるでしょうし、貴族の話なので特殊な環境ではあります。少なくともとても自由な人間関係を許容する社会があり、個人的な人間関係に留まらず、社会のあらゆる仕組みの中に平和的な影響を与えてきたと考えています。