坂田金時 (さかたのきんとき)

古くは公時とも書く。源頼光の郎等で,四天王の一人。《今昔物語集》巻二十八第2話に頼光の郎等の平貞道(さだみち),平季武とともに 賀茂 の祭の帰るさの日に女車にしたてた 牛車 に乗って 紫野 に行ったが,初めて乗った牛車にすっかり酔いつぶれた話がみえる。これは烏滸(おこ)ばなしだが,《古今著聞集》巻九に頼光が四天王たちと鬼同丸を退治する話のなかにその名がみえ,《 古事談 》巻六には藤原道長と競馬(くらべうま)をする話がみえる。屋代本《平家物語》剣巻に源家重代の名刀鬼切丸にまつわって 渡辺綱 が一条戻橋であった鬼の手を切る話があり,これは謡曲の《羅生門》と同工の話だが,そのなかに公時の名が見える。謡曲《大江山》や御伽草子《酒呑童子》では頼光の丹波国大江山の酒呑童子退治に参加している。これらでは坂田(酒田)という姓も明らかでない。近世に入って《前太平記》や《広益俗説弁》になって民譚的な金時あるいは金太郎の人物像に近づいてくる。この2書を総合すると,母の老嫗と足柄山中で生活していたのを,21歳のときに頼光に見いだされ,坂田公時と名付けられ,頼光に仕えて36歳のときに主馬佑として酒呑童子退治に参加し,一生妻女をもたず,頼光没後,行方をくらまし足柄山で足跡を絶ったという。その出生については《前太平記》に〈妾(われ)かつて此の山中に住む事,幾年といふ事を知らず,一日此の嶺に出て寝たりしに,夢中に赤竜来たりて妾に通ず,其の時雷鳴おびただしくして驚き覚めぬ,果して此の子を孕めり〉とあって,山姥説話と結びつけられている。山姥は山神に仕える女性と考えられるが,怪力を持つ英雄は神童でなければならず,金時が雷神と山姥の子とされたのであろう。ここから後の金太郎の像が形成される。全身が赤く,鉞( まさかり )をかつぎ,熊に乗るわけだが,鉞は雷神の武器であり,赤は神霊を有するものを,熊は山中誕生を象徴している。そしてその背後には遠く古代の信仰に流れをくむ 雷神信仰 や処女懐胎説話などがかくされている。《 新編相模国風土記稿 》の足柄郡の条ではその出生地を金時山としているが,おそらく足柄付近のこういった信仰を史上の金時に結びつけたものであろう。一方,近世初期には金平浄瑠璃(きんぴらじようるり)の主人公に坂田公平という公時の子を創作し,大活躍させている。
金平浄瑠璃
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