ゴムの製造工程では、必ず「加硫(かりゅう)」という工程を経る必要があります。実施しなければ、私たちが想像する弾力性を持ったゴムになりません。しかし加硫は一般的な語句ではなく、あまり意味を把握していない方も多いのではないでしょうか。
当記事ではゴム製造における加硫の概要や架橋との違い、未加硫ゴムとの違い、加硫以外の方法などを解説します。
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ゴムの加硫とは
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加硫と架橋の違い
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ゴムの加硫方法
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ゴムの加硫はタイミングが大事
ゴムの加硫とは
ゴムの加硫(かりゅう)とは、ゴムの弾性を発揮させるために行う工程です。未加硫のゴムには一般的にイメージされる伸び縮みする弾性がありません。
まず基本的なゴムの製造工程は次のとおりです。
製造予定の製品の用途や条件に最適な原料ゴム(ポリマー)を選び、充填剤、加硫剤、薬品、オイル等の配合剤の種類や使用料を決定し配合表を作成する
ロールやニーダーと呼ばれる混練機を使用し、配合表に基づいて均一になるように混合(混練)する。
混練した粘土状の材料をゴムコンパウンドと呼ぶ
ゴムコンパウンドを金型に仕込み、プレス成形機によって加圧・加熱し、金型通りに形状化される。
加熱により分子間に架橋構造が形成され、弾性体となる。
これにより私たちのよく知るゴムになる
検査を行う
硫黄によるゴムの加硫が発見されたのは1839年です。アメリカのグッドイヤーが硫黄による加硫方法を発見して以来、ゴム産業は一気に拡大しました。そして2000年代を超えた現在でも、この加硫は最重要工程となっているのです。
加硫の概要と未加硫ゴムとの違い
加硫は成形したゴムに硫黄を架橋剤として加えた後、熱(通常100~200℃)をかけて化学反応を起こさせ、ゴムの分子構造を変化させる工程です。加硫前のゴムは粘土のような粘り気ある物質ですが、硫黄との化学反応によってゴムの分子が連結し、粘質から変化した弾力性あるボディを得られます。
加硫前である未加硫ゴムの分子組織は鎖状です。引っ張ればすぐにちぎれる上に、一度変形すれば粘土のように形状が保持されます。また未加硫のままだと劣化が著しいというのも特徴のひとつです。
ここで加硫を行うことで、鎖状だったゴムの分子同士が網目状に連結していきます。この組織がゴムの弾性と耐熱性を産み出すのです。この化学反応を正しくは「架橋(かきょう)」といい、「硫黄を用いた架橋」を加硫と呼ぶようになりました。
2021年現在でも、硫黄を用いた加硫がゴム製造における主流の方法です。ただし硫黄は「二重結合を持った不飽和ゴムにしか使えない」「耐熱性、耐熱酸化性、耐圧縮永久ひずみ性が弱い」というデメリットもあります。
未加硫ゴムでも加硫が始まる?
上記では100~200℃ほとで加硫を行うとしましたが、実際には常温レベルで熱を加え続けても加硫が起こります。例えば加硫工程以前の押出・圧延工程での熱、夏場の暑い時期や温度が高い室内での保管などが原因です。
最終製品となる前の加工や貯蔵の段階で加硫が起きることを「スコーチ」といいます。もしくは「ゴム焦げ」や「早期加硫」です。「ゴムの賞味期限が決まる」という表現が近いのではないでしょうか。
もしスコーチが起きてしまうと、それ以上の加工が不可能となるばかりか、ゴム製品の品質が大きく低下します。
スコーチを防ぐ何よりの対策は、加硫前の材料の貯蔵は風通しが良く、温度管理が可能な冷暗所で行い、成形は消費期限内に行うことです。そのため、しっかりとした管理が必要となります。後述する「加硫促進剤」といった添加物を加えてスコーチの時間を伸ばすなどの対策も考えられます。
加硫に必須である「加硫促進剤」について
実は未加硫ゴムと硫黄だけでは化学変化が起きるまでに数時間~数十時間の時間要します。そのため、実際は「加硫促進剤」や促進助剤の添加が必要です。入れることで、通常の加硫時間よりも10分の1以下にすることもできます。加硫促進剤は、まさにゴムの大量生産には欠かせないものといえるでしょう。
加硫促進剤の添加は加硫速度の調整だけでなく、加硫ゴムの物性向上も目的としています。さまざまな加硫促進剤を組み合わせて使うのが一般的です。主な加硫促進剤は次のとおりです。
チアゾール系
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代表的な加硫促進剤
スルフェンアミド系
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スコーチ時間の長さと加硫速度のバランスが良好であるため、タイヤや工業品のゴムにもっともよく使用される
チウラム系
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EPDM や NBR の加硫剤、またはNR や SBR の⼆次加硫剤として使⽤される
ジチオカルバミン酸塩系
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非常に高い加硫促進効果をもち、「超促進剤」とも呼ばれる
グアニジン系
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ほかの加硫促進剤とセットで使われ、ゴムに硬さや腰の強さを与える
製造工程や製品に求める性能によって、使うべき加硫促進剤は変化します。自社で配合表を作成する際は研究をしっかり行い、現場で投入する作業に当たる際は種類と分量を間違えないようにしましょう。
加硫と架橋の違い
前述のとおり、加硫と架橋は別工程というより「ゴムの分子を連結させる『架橋』という枠組みの中に加硫がある」というイメージが正しいです。広義では加硫と架橋は同じ意味といえます。
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ゴムの加硫方法
「硫黄を使った加硫以外に、ほかの架橋方法はあるの?」という疑問ですが、結論から言えば硫黄以外で正しく架橋させる方法についても開発や見直しが進んでいます。硫黄以外では「パーオキサイド加硫(PO加硫)が多いです。
パーオキサイド加硫とは別名「過酸化物架橋」ともいい、有機過酸化物を利用した加硫を行います。硫黄と比べたときのパーオキサイド加硫の特徴は次のとおりです。
耐熱性に優れている
耐圧縮永久ひずみ性に優れている
電気絶縁性が高くなる
スコーチの安定性が高くなる
加硫時間が短いが調整は難しい
伸びや引裂抵抗が小さい
汚染性が少ない
強い臭気がある
配合コストが高い など
パーオキサイド加硫以外の架橋としては、ほかに次のような方法があります。
架橋の種類
使用する架橋剤
アルキルフェノール樹脂オリゴマー
ポリオール架橋
ビスフェノール類
アミン架橋
ジアミン類
酸化亜鉛 ZnO
p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム
「ゴム素材は全部硫黄で大丈夫!」と安易には考えず、適切な方法を用いて架橋を行うことが大切です。
ゴムの加硫はタイミングが大事
加硫とは「硫黄を用いてゴムに架橋を発生させること」を意味します。架橋はゴムの分子同士をうまく連結させることで、ゴムに弾力や耐熱性などを与えることが可能です。もし適切な保管や製造方法から外れると、スコーチによる製造不可や品質低下のリスクがあります。
高品質のゴムにするためには、適切なタイミングで加硫を発生させることが重要です。技術者や職人の経験から読む加硫タイミングこそ、製品の質を直接左右するといっても過言ではありません。
ゴムの配合を決める業務でも、現場で実際にゴムを製造する作業でも、正しい加硫の知識や作業方法を頭に入れておきましょう。
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